(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝猫と庄造と二人のおんな〟月影十番勝負第九番

新感線の看板女優、高田聖子が座長をつとめる〝月影十番勝負〟のシリーズも、早いもので9回目を数える。高田聖子命のわたしとしては、当然のごとくマメに足を運んでいるが(ただし、見逃しもあり)、一番一番が高田聖子にとって、単に修行の場というだけではなく、他流試合に挑む緊張感というか、脚本家や演出家、はたまた共演する俳優らとの真剣勝負のような雰囲気があるのが良いと思う。思えば、その間に、高田はテレビの連続ドラマに出演したかと思うと、私生活では結婚までしてしまった。それらの経験が活きてかどうかは定かでないが、その間、女優として大きな成長を遂げてきたことは間違いない。
今回は、原作谷崎順一郎。というわけで、もともと艶っぽいストーリーなのだが、さらに内田春菊の脚本、木野花の演出で、より色っぽい物語に仕上げている。幕開きの場面は、品子(高田聖子)のモノローグ。彼女は、携帯メールを分かれた亭主庄造(利重剛)の今の女房である福子(中谷さとみ)に送っている。いわく、庄造の飼っている猫のリリー(土屋久美子)を、譲ってほしい。品子が言うには、リリーをそばにおくと、庄造は猫ばかりを可愛がり、夫婦の仲もうまくいかなくなる、という。
一方、品子にはリリーが自分のところに来れば、リリーを溺愛する庄造もつられて彼女のもとに戻ってくるのでは、という思惑がある。品子の脅かしを半ば笑いながらも、一抹の不安を抱く福子は、やがてそれが大きな心配の種になり、庄造にリリーを手放すように迫る。庄造は抵抗するが、キレまくる福子に降参し、かくしてリリーは品子のもとへとやられることになるが。
いまさらではないが、高田聖子の舞台への入り具合には、感動に近いものを憶える。円形劇場の前から二列目というポジションの良さもあるが、アドリブに近いギャグの台詞回しのあとに来る濃密なひとり芝居を眺めていて、つくづくそう思った。複雑な内省を演じる彼女の頬を伝う一筋の涙に、思わず息を呑んだのは、わたしだけではないだろう。新感線の後輩として、猛スピードで彼女を追う中谷も、元気で溌剌とした芝居をしているが、高田の域にはまだまだ遠いものを感じる。それほど、彼女の芝居は充実している。
特筆すべきは、リリーを演じる土屋久美子の達者な猫ぶりで、登場人物たちの間を自在に動き回って、猫の視点を観客に意識させることによって、ドラマに客観的な奥行きを醸し出している。いわば、舞台版〝我輩は猫である〟のテイストである。リリーが登場人物たちを観察するともなく眺め、辛らつな批評をあれこれ浴びせることで、逆に登場人物たちにスポットライトが当たるという仕掛け。これは脚本の内田春菊と演出の木野花の大きな手柄だろう。リリーの圧倒的な存在感なくしては、この舞台のあそこまで面白い仕上がりはなかったと思う。
■データ
ソワレ/青山円形劇場