(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝箪笥〟(2003)

ホラー関連で「箪笥」というと、われわれオールド世代には半村良の短篇がまっさきに思い浮かぶが、もちろん別物。韓国の古典怪奇談「薔花紅蓮伝」がもとになっているそうだ。最近流行りの韓流にちょこっとだけ便乗しているわたしとしては、この映画もミステリという噂を聞きつけて、DVDをチェックしてみることにした。スティーブン・スピルバーグ監督が史上最高額でリメイク権を獲得したという馬鹿げた話もある。(しっかりしろよ、ハリウッド!)
ソウル郊外とおぼしき美しい湖畔に佇む古い屋敷。かつてこの家には、スミ(イム・スジョン)とスヨンムン・グニョン)の姉妹が両親と仲良く暮らしていた。母親はすでに他界しているが、家族は久方ぶりにこの家に帰ってきた。出迎える美しい継母のウンジュ(ヨム・ジョンア)に、表情を凍りつかせるスミ。継母からスヨンを庇うスミだったが、家に着いたその日から、彼女の周囲では異様な出来事が立て続けに起きていく。
ウンジュに反発するスミ、ふたりの間の摩擦は次第にエスカレートしていく。そして、父親(キム・ガプス)の招いた客が、食事の最中にとんでもないものを台所の流しの下に目撃する。やがて、スヨンの部屋に置かれた箪笥をめぐり、過去に起きた忌まわしい事件が明らかにされていく。
冒頭、姉妹が湖畔で足を水面につけて遊ぶシーン、朝に晩に映し出される古い屋敷の佇まいなど、絵的には美しく印象深い場面が多い。キューブリックの「シャイニング」を連想させたりもする雰囲気もあって、詩的な映像美が散りばめられた作品といっていいだろう。
作中、さりげない違和感がいくつも提示され、映像として映し出されている場面をそのまま受け取ってはいけないことが、薄々判って来る。しかし、正直、真相までは見抜けなかった。その捻りの加え方は、評価していいと思う。しかし、伏線の張り方やヒントを観客に提示するテクニックとなると、『クワイエット・ファミリー』や『反則王』を手がけてきたキム・ジウン監督の丹精が込められている印象はあるものの、それがさほど実を結んでいない。観終わっても、判然としないもどかしさが残るのはそういう理由だろう。
登場人物たちをめぐる家族であるがゆえの根の深い葛藤は、非常に濃く描かれている。ホラー映画としても見所は多く、一定の水準には達している。しかし、ミステリ・ファンの勝手な思い込みかもしれないが、もうひとつ、ミステリとしてのフェアプレイの精神に拘ってくれていたら、さらにいい作品になったろう。[★★]

箪笥-たんす- [DVD]

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(以下ネタばれ)
すでにスヨンは死んでおり、継母のウンジュも屋敷にはいない。すべてスミの妄想であった、というのが真相。最後に、スヨンの部屋にあった箪笥をめぐる過去の悲劇が明らかにされ、スミはウンジュへの反発から、スミの命を救えなかったツライ記憶があったことが明らかにされる