(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝デンキ島 松田リカ編〟モダンスイマーズ第7回公演

〝ザ・ポケット〟は、中野の住宅街の中にある。劇場経営者は、近隣対策とかいろいろと大変だろうけれど、芝居ファンだったら、こういう小屋が近所にあるのは、羨ましいと思うに違いない。JR中野駅から徒歩5分で、電柱なんかの道案内が親切で、入り組んだところにあるにもかかわらず、初めてだったのに迷わず着けた。キャパも思った以上にあって、舞台も狭くない。いい劇場だ。
さて舞台の隅には、電信柱が立っていて、そこに花束が置かれ、ピンスポットがあたっている。定刻を10分ほど過ぎて芝居が始まると、その花は登場人物のひとり、スミエに捧げられたものだと知らされる。暗転して、柔道に精進するリカ(中島佳子)、建築士をめざすスミエ(加藤亜矢子)、デザインを勉強しているマコ(田口朋子)の仲良し3人組の高校生活が語られる。彼女たちは、間近に控えた卒業式が終われば、生まれ育ったこの島を出て、一緒に東京で暮らそうと約束を交わしている。しかし、母親が男と逃げ、父親のユウゾウ(菅原大吉)も怪我をして以来博打と酒に溺れているリカの一家は借金がかさむばかり。農業で一家を支えているのは、兄のノブヒコ(津村知与支)だが、リカもバイトに精を出している。
そんな折、島へとやってきたヤクザの3人組からリカの一家は執拗な取り立てを受ける。その中のひとりサツキ(高橋麻理)は、リカの芯の強さを見抜き、彼女のことを気に入る。リカはサツキの下で働くようになり、その結果スミエやマコとは次第に疎遠になっていく。しかし、卒業式の当日、リカはふたりとともに島を出る決心をするが、出際に父親ともめてしまう。待ち合わせの場所にいつまでも現れないリカを迎えに走るサツキは、交通事故に。
起承転結のはっきりした非常にストレートな芝居であり、それなりにまとまりもある。しかし、裏返すとややありきたりの物足りなさが残ってしまうのも事実だ。後半、非常にいいくだりがある。サツキが死んだ後、主人公のリカがかつての3人組でつるんでいた楽しかった時代を回想する場面だ。役者たちは、いきいきと3人の女子高校生を演じているが、欲をいえば、この場面でもうひとつの飛躍がほしかった。この場面がもっと輝けば、この芝居はさらにひと皮剥けたものになっていただろう。
役者でいえば、リカ役の中島佳子(無機王)に、(意図的な配役だと想像はつくが)やや華が感じられないのが寂しい。3人の中では、おどおどした引っ込み思案な性格をビビッドに演じたマコ役の田口朋子がいい芝居をしている。お目当ての野口かおるは、今回、コメディリリーフ的な配役だが、存在感は十分で芝居全体を引き締めていた。サツキ役の高橋麻里(扉座)の魅力とユウゾウの菅原大吉の達者さもあって、2時間10分という長さはなんとか乗り切れている。
本と演出の蓬莱竜太は、この夏『世界の中心で愛を叫ぶ』の舞台が待っているらしい。どういう芝居になるんだろうか。
■データ
マチネ/中野ザ・ポケット