(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

殺人の追憶 (2003)

わたし自身は目を通していないのだけれど、先日、雑誌のAERAが「思いっきりミステリー映画」という特集を組んだ際に、この作品がランクインしたというのを聞いて気になり、チェックしました。(おまけに、キネ旬の2004年海外映画の第2位だ!)韓国ドラマのブームには興味がないけど、監督のボン・ジュノという人は「ほえる犬は噛まない」で評判をとった若手のホープだそうで、なるほどその実力を伺い知るには十分な力作です。ちなみに本作は、80年代後半から90年代初めにかけて、韓国で実際に起こった連続猟奇殺人の未解決事件に材をとったものだそうな。
1986年10月ソウルから南へ行った田舎町華城(ファソン)で、若い女性の変死体が見つかった。田圃脇の側溝から見つかった被害者は、手足を縛られ、強姦されていた。間をおかずに、近所で同じ手口の事件が発生し、またもや若い女性が犠牲になった。地元警察の刑事パク(ソン・ガンホ)はガールフレンドの噂話から、知恵遅れの少年クァンホ(パク・ノシク)を逮捕し、現場検証を行うも手がかりはまったく得られない。
クァンホは釈放され、ソウルから事件の捜査を手伝うために刑事ソ(キム・サンギョン)がやってくる。やがて、事件当夜はいずれも雨であり、被害者は赤の服装をしていたことが明らかになるが、またもや被害者が死体で発見される。女性警官の進言から、事件のあった日には必ずラジオで『憂鬱な手紙』という曲がかかっていたという事実が浮上、その線の調査を進めるとともに、警察はおとり捜査を敢行する。しかし、それを嘲笑うかのように、罠とは別の場所でまたもや殺人事件が発生する。
捜査はことごとく後手にまわり、捕まえた容疑者も決め手を欠く警察だったが、ようやく決定的な手がかりがもたらされる。『憂鬱な手紙』をリクエストした葉書がラジオ局で見つかった、と電話が入る。葉書の住所からパク(パク・ヘイル)という男が逮捕され、現場に残された精液とのDNA鑑定が行われることになった。
田舎の刑事と都会の刑事、足を使う捜査と頭脳を使う捜査。そういう対立の構図を使うのはお決まりのパターンだが、田舎刑事役のソン・ガンホが人を喰ったお惚けの演技でいい味を出していることもあって、観る側を飽かせない。シーンとしては少ないが、犯人の追跡や犯行の場面で緊張感が高まる演出はなかなかのもので、全体を支配する暗く沈んだトーンの中に、いいメリハリを生んでいる。
少しづつ小出しにされるミッシングリンクや手がかりの使い方もうまい。それに、ソン・ガンホや捜査課長役のソン・ジェホの味のある役柄が、暗く陰湿な事件を、ほのぼのとしたユーモラスな味わいでくるみこんでいる。
ただ、(以下ネタばれ)を読んでいただけば判るように、この作品は厳密な意味でのミステリ映画ではない。ミステリーとしての肝心な部分がないことが、むしろ独特の余韻を生んでいるのだが、ミステリ・ファンの中には喰い足りない思いをする向きもあるに違いない。わたしは、捜査過程の面白さとスリル、そして幕切れの余韻をすっかり堪能した。[★★★★]

殺人の追憶 [DVD]

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(以下ネタばれ)
DNA検査の結果は一致せず、決定的と思われた容疑者のパクは犯人ではなかった。それから物語は、十年以上が経過し、パク刑事は警察官を辞め、家族を持ち、別の仕事についている。ふと近所に来たついでに第1の死体発見現場で側溝を覗いていると、通りかかった少女から話しかけられる。ついこの間も、同じことをしていた男がいた、と少女は語った。犯人は、今も捕まらずに生き延びていることを暗示して、エンドロール。