(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝BIGGER BIZ〟AGAPE store#9

3部作における2作目の再演である。なんでも、完結編の上演を来年に控えての今回の再演になったらしい。わたしは、最初の『BIG BIZ』(2001年、2002年)も、今回の『BIGGER BIZ』(2003年)の初演も不幸にして観ていない。(今回だって、動機は、最近贔屓の松永玲子嬢が観たい、という不純(?)なものなのである)
前作座付き作家で、自分も舞台にあがっている後藤ひろひとは、終演後の舞台上で、「まさか、こんなことになるなんて…」と語っていたが、そもそも最初の『BIG BIZ』は単発もののつもりで書かれた作品だったようだ。舞台挨拶の冗談がきっかけで、こんなこと(3部作)になった、と座長の松尾を怨むようにぼやいていた。
思わせぶりなプロローグに続いて、シンガポールのホテルの一室で物語が始まる。幽霊会社の木材屋から、今や海外に支店をもつ大会社にまで成長した結城ビッグ・ビズ・エンタープライズの社長である結城(粟津まこと、声の出演のみ)と若手社員の加賀(坂田聡)は、神崎(後藤ひろひと)が経営するこのホテルに滞在している。彼らの目的は、社運を左右しかねない契約の更改のためで、ふたりは新しい契約相手の代理人が到着するのを今かと待っていた。
ところが、どういう訳か、招かれざる客である健三(松尾貴史)がひょっこりとホテルに現れたことから、大混乱が始まる。結城は浴室で気を失い、動転する加賀に追い討ちをかけるように、健三は行き当たりばったりに事態を仕切り始める。やがて、やってきた代理人の川島(三上市朗)と契約の調印を無事行うために、加賀は健三の言うままに社長の結城になりすますが、駆けつけたマニラ支社の木太郎(八十田勇一)の勘違いもあって、どんどん混乱の深みへ。さらに、インターポールから指名手配を受けていたハッカーの皿袋(松永玲子)までもが加わり、混乱はさらに悪夢のような事態へと発展していく。
よく出来たコンゲームを下敷きにした芝居づくりである。後藤ひろひとの脚本は手堅いが、ややきっかりし過ぎているところがあって、最初はなかなか笑いの世界へ乗っていけない。そんな観客の緊張感を崩していくのは、植木等をナンセンスにしたような松尾貴史のギャグで、ひとつひとつの芸が結構腹を抱える。いつの間にか、松尾のとる笑いに乗せられて、いつの間にか作りこまれたプロットの中へ導かれていくという感じだ。
松尾ばかりでなく、俳優たちのひとりひとりが実に達者で、後藤の割り当てる難しい役柄をそれぞれこなしている。お目当ての松永嬢は、NYLON100℃の地方公演と行ったり来たりの厳しい状況のはずだが、疲れをぜんぜん見せない演技で、溌剌としたコメディエンヌぶりを披露してくれる。おたくとセクシーを行き来するキャクターの演じわけが絶妙だ。
結局物語は、ファースト・シーンへと収束していくわけだが、その過程に見せる捻りで意表をつく展開もお見事。次の完結編にあたる『BIGGEST BIZ』への期待がなんとも膨らむ再演でありました。なお、最初の『BIG BIZ』のビデオ上映会をセットにした舞台もあるようだが、DVDも発売されているようなので、来年に向けチェックしようかとも思う。5500円とちょっとお値段がはるのだが。
■データ
新宿紀伊国屋ホール