(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

マンハッタン殺人ミステリー(1993)

今年もよろしく。というわけで、まずは近日公開のアナウンスがされている『さよなら、さよならハリウッド』への期待をこめて、ウディ・アレンの作品を。若い頃のアレンは、ややもすると才気が勝ちすぎるきらいがあって、個人的には必ずしも好きな作品ばかりとはいえないが、90年代以降は、こちらも歳をとったせいか、登場人物の考え方に共感させられることが多くなってきた。そのきかっけとなったのが、この93年の作品『マンハッタン殺人ミステリー』である。
編集者のラリー(ウディ・アレン)は、マンハッタンのマンションで妻のキャロル(ダイアン・キートン)と暮らしているが、ある晩、エレベーターで一緒になった隣人のハウス夫妻と親しくなる。その数日後、ハウス夫妻の妻(リン・コーエン)が心臓病で急死したと知らされるが、キャロルはハウス氏(ジェリー・アドラー)のやけに明るい態度に不審を抱く。ラリーは、キャロルのそんな行動を咎めるが、二人の友人である俳優で演出家のテッド(アラン・アルダ)の協力で、キャロルは探偵そこのけの調査を開始する。そんなある日、死んだ筈のハウス夫人の姿をとあるホテルの前で目撃したキャロルは、ラリーをともなってホテルの部屋に潜入するが、そこで死体となったハウス夫人を発見する。
そもそもミア・ファーローとの共演が予定されていたが、アレン自身の私生活のあれやこれやで、ダイアン・キートンが起用されたと聞いている。しかし、それによって、まるで『アニー・ホール』の後日談のような雰囲気に仕上がったことは悪くないと思う。〝ミステリー〟と謳ってはいるものの、物語の中盤で主人公のラリーが担当する女流作家のマーシャ(アンジェリカ・ヒューストン)が披露する推理がそのまんまという寂しさだが、終盤、劇場の場面では、ちょっとしたヒッチコックを手本にしたような緊張感がある。
しかし、むしろ見所は、優雅なカルチャー・ライフを送る登場人物たちの饒舌なやりとりにある。ほとんどひっきりなしに喋っている登場人物たちを見ているだけで愉快だし、キャロルが脚本家のテッドへ、ラリーが女流作家のマーシャへ向ける好意を、それぞれが嫉妬するという展開の挙句に、気弱なラリーの活躍でキャロルを窮地から救い出すという幕切れは、かつての作品にはない暖かさを感じる。[★★★]