(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

イブラヒムおじさんとコーランの花たち(2003)

雪の降る日に、恵比寿ガーデンシネマで『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』を観た。正月映画と聞いていたけど、天候のせいもあってか、3:10分の回はがらがら。年末の慌しさを束の間逃れ、ゆったりした気分で観られました。
1960年代のパリが舞台。多感な年齢にさしかかったばかりの少年モモ(ピエール・ブーランジェ)は、パリの裏通りのアパートメントで父親(ジルベール・メルキ)とふたりで暮らしている。母親はモモが幼い頃に家を出ており、父親はあまり彼を構う余裕がない。食料品を万引きしたりして、荒んだ日々を送っているモモに暖かい眼差しを向けるのが、食料品店の店主イブラヒム(オマー・シャリフ)である。イブラハムのさりげない人生の手ほどきで、モモは少年らしい闊達さを取り戻していく。やがて、モモに訪れる家族との別離。それを機に、イブラヒムは彼を養子にして、故郷であるトルコの小さな村を目指して、赤いオープンカーで旅立つ。
街頭には娼婦たちが立ち並び、さまざまな人々が行き交う活気にあふれたパリの裏町。その猥雑な舞台で繰り広げられるモモのさまざまな日常をいきいきと描いていく前半は、わたしの大好きなフランス映画のテイストに溢れている。後半は一転し、パリを出発して大陸づたいに車を走らせるロードムービーとなる。
イザベル・アジャーニがちょい役で出演していたり(最初は判らなかった)、画面に広がるトルコの風景にイスラムの教えがかぶさる後半の宗教的で静謐な展開など、見所は沢山あるが、全体には淡々としたタッチで物語は進められていく。エンディングはやや唐突という感じがないではないが、余韻は悪くない。個人的には、イブラヒム老人の人生哲学のようなものがさりげなく語られるくだりが好きで、失恋したモモに対し、『彼女への愛は気味だけのもので、それは永遠に失われない』という一言なんて、なかなか心にしみるものがあった。
贅沢に使われる60年代音楽もいい雰囲気を出していて、とりわけ予告編でも流れたボビー・ヘッブの〝サニー〟がいい感じだし、クリス・モンテスの曲も懐かしい。監督は、『夜のめぐり逢い』や『うつくしい人生』のフランソワ・デュペイロンで、原作はエリック=エマニュエル・シュミットのベストセラー小説『モモの物語』。、モモ役のピエール・ブーランジェはまったくの新人とのこと。[★★★]

イブラヒムおじさんとコーランの花たち [DVD]

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