(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝消失〟NYLON100℃ 27th SESSION

NYLON100℃の新作『消失』は、兄弟愛の物語である。そう、あえて愛という。中年目前といった30代の兄弟を、みのすけ大倉孝二がいい感じに演じている。
時代は、おそらく近未来の地球のどこかの国。世界は、核戦争後を思わせる終末観に満ち満ちている。兄のチャズ(大倉)と弟スタンリー(みのすけ)は、人里はなれた屋敷で、仲良く暮らしていた。ふたりはクリスマスのパーティを準備しながら、スタンリーの女友達スワンレイク犬山犬子)の到着を待ってる。プレゼントを用意して、彼女と会うのを楽しみにしているスタンリー。その弟に兄は、今晩こそ彼女を口説くように、と説得する。しかし、彼女があさりのアレルギーであったことから、その晩は散々な結果に終わってしまう。
一夜明けて、意気消沈する弟をなぐさめる兄。そこに、怒ったスワンレイクがやってきて、ひと騒動が持ち上がるが、やがて彼女とスタンリーはよりを戻し、これまで以上に愛し合うようになる。しかし、そこに、ひとりのガスの修理人(八嶋智人)が登場する。彼の登場をきっかけとして、いわくありげに弟を愛する兄のと、無邪気に兄を愛する弟の間に横たわる秘密が暴かれていくことに。
公演チラシを手にしたときは、その濃いブルーの色調から暗い話を連想したが、それは当たらずとも遠からず。しかし、辛気臭い話ではない。サスペンス・スリラーのドラマを基調として、そこには悲劇のカタルシスがきちんと折りこまれている。仕掛けへと向かう緊張感あふれるドラマは、一種の美学とでも言いたくなる作劇術によるもので、ジャンルは違うがヒッチコックを連想させたりもする。確か、以前の『フローズン・ビーチ』に非常に似たつくりである。
舞台装置もよく練られており、それがクライマックスで活かされるあたりが素晴らしい。間借り人のエミリアを演じた松永玲子や、スタンリーの秘密を握る人物のひとりであるドーネン役の三宅弘城も、物語にスパイスをきかせる好演でドラマを引き締めている。ただ、2時間40分(とのアナウンスだったが、実際にはもっと長かった)という上演時間はやや長すぎる気がした。
■データ
マチネ/新宿紀伊国屋ホール