(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝恋の渦〟ポツドールVOL.15

「恋の渦」と聞いて、岸田賞をとった「愛の渦」の姉妹編だろうか、という思いがよぎるものの、実は「愛の渦」は観ていない。それはともかく、ポツドールは今年、春先に「夢の城」というアナーキーな作品を上演し、そのあと初夏には6月には女性のスタッフだけで作り上げた「女のみち」と、この劇団に相応しいインパクトを与える公演が立て続けにあっただけに、非常に楽しみな新作ではある。
そんな期待を持って足を運んだ初日だけれども、そうか、これはラブコメですね。女性との接し方を通して、男を描く手法。厳密にいうならば、ラブコメがそもそも少女マンガのスタイルであるとするならば、「恋の渦」はそれを男の側に裏返した、とでもいったらいいだろうか。
イベントと称して、仲間内のもてない男に女を紹介しよう、と催された自宅でのちょっとしたパーティ。集まった男女九人の中には、一緒に暮らすカップルもいれば、兄弟もいる。今どき珍しいくらい純情な男もいれば、婚約者が勤めに出ている隙に女を自宅に連れ込む奴もいる。パーティがお開きとなって、それぞれが帰宅したところから物語が始まる。
タイトルバックが終わり、再び幕があがった舞台上には、四つの部屋を大胆に上下左右に配したセットがあって、これにはちょっとびっくりする。(イントロでは伏せられている)パーティで知り合った男女の物語が、四つのシーンに分割されて進行していくという、ここのところのポツドールにはない手法だ。
巧いのは、人物が四つの場面を行き来するだけではなく、携帯電話という飛び道具を使って、それぞれの場面を交流させていくところで、ひとつひとつのエピソードが濃厚であるにもかかわらず、全体としての大きな流れは損なわれない。最初は、なかなか区別がつきにくい登場人物たちの人間性の違いのようなものが、時間の経過とともに浮かび上がってあたりも、さすがと思わせる。
ただし、あくまで男の視点で書かれているので、やがて悲しき男の純情、げに恐ろしきは女よ、というありきたりの結論に流れる甘さがあるのは否めない。先の番外公演「女のみち」からの逆影響もあるように思えるが、あちらを演出した溝口真希子に較べると、同性に対する眼差しの鋭さでも、やや欠けているものがあるように思えるのは、わたしも三浦大輔と同性だからだろうか。
とはいえ、先にも述べたように、恋愛をテーマにしている分、いかに醜い人間の性癖を見せ付けられても、どこか心地よさをおぼえてしまう。なにせ、ラブコメだし。そういう意味で、題材で得をしている部分が大きいと思う。さて、次は、いよいよ本多劇場。大舞台のハードルをいかに越えてくれるかが楽しみだ。

■データ
2006年11月29日ソワレ(初日)/新宿シアタートップス
11・29〜12・10
作・演出/三浦大輔
出演/ 米村亮太朗、古澤裕介、鷲尾英彰、美館智範、河西裕介、内田慈、遠藤留奈、白神美央、小島彩乃、小林康浩
照明/伊藤孝(ART CORE design) 音響/中村嘉宏(atSound) 舞台監督/清沢伸也、村岡晋 舞台美術/田中敏恵 映像・宣伝美術/冨田中理(selfimage produkts) 演出助手 富田恭史(jorro) アドバイザー/安藤玉恵 小道具/大橋路代(パワープラトン) 衣装/金子千尋 写真撮影/曳野若菜